かねてからとても深い興味をいだいていた演出家、ペーター・ゲスナーさん。
縁あってディレクターズワークショップにお招き出来た。
安部公房「友達」
いやー、おもしろい!
彼の、芝居に対する・・・役者に対する・・・造詣の深さももちろんだが・・・、
ペーター・ゲスナーさんは、東ドイツ出身の演出家なのだ。
1962年、旧東ドイツのライプツィヒ生まれ。
私とほとんど同い年。
日本はまさにバブル経済。わけのわからない興奮でみんなが踊っていた。
もちろん私は、バブルの恩恵などほど遠い貧乏俳優生活を送ったが…(笑)
まさにそのころ、彼はデモに行き、そしてベルリンの壁が崩れた。
私ごときでもその時、稽古場で「こんなことをしている場合だろうか。世界が変わる」と話していたのことを覚えている。
もちろん、何ができたわけではない。自分の生活と演技と、闘ってやっと今まで生き抜いている。
ペーター・ゲスナーさんは、まさにその時、歴史の変化の真っただ中にいたのだ。
「友達」という戯曲が何たるかを説明するために、ペーターさんは当時の自分の体験を話してくださり、「人間とは・・・」「だからこの場面のこの会話はこういうことなんだ」と、身をもって話しかけて下さる。
「演劇」をやること。「演出」をすること。「生きること」。
特に深刻な話をするわけではない。当時の生活の話。今の、昔の日本やドイツなどの話。
さりげない話の中にしっかりと確実な「芯」「ポリシー」があるのが感じられる・・・。
台本はくしくも「友達」。
個で生きている「男」のところに、まさに津波のように見知らぬ「家族」が押し寄せてくる。
「経済」を優先するあまり崩壊してしまった日本の「家族」、そこでどう生きていったらいいかさ迷ってしまっている「日本人」。
それを、社会主義から民主主義へと、二つの世界を実際に経験したペーター・ゲスナーさんがご自身の世界観で語って下さる。
こんな経験、滅多に出来るものではない。
充実した時間を過ごしている。
改めて、芝居ってやっぱりすごい!
柚木佑美